Bousou - Honey.
!!! R-18 !!!
いやらしいシーンはありますが本番はありません
時臣にうさみみが付いている現パロ
「人の形をした動物」というような設定なので、少々頭が足りない子になっています
設定萌え目的の本なので、細部には目を瞑って頂けますと幸いです
さびしいと しんでしまう いきもの。
「……貴方は、何者ですか?」
綺礼は上ずった声で尋ねる。
赤いスーツを身にまとった男は、蒼い目を細めてまるで異国の貴族のように優雅に微笑んで、口を開いた。
「私は遠坂時臣。うさぎだよ」
その言葉で綺礼はやっと理解した。
なるほど、彼の艶やかな黒髪、その頭頂部から左右に少しずつずれたところでぴこぴこと揺れていたあの長いものはうさぎの耳だったのだと。
――理解したところで、事態が変わるわけでもないのだが。
それは昨日――つまり土曜の夜に、離れて暮らす父から久しぶりにあった電話がきっかけだった。
元気にしているかとか父上もお変わりありませんかとかそういった当り障りのない会話のあと、ところで綺礼、と父・璃正は改まった口調で話題を変えたのだ。
『一つ、頼まれごとを引き受けてはくれんかね』
「なんでしょうか」
『ある場所に行って、そこにいる動物の世話をしてきてもらいたいんだ』
「動物、ですか?」
深刻な口調で伝えられたのは突拍子もない言葉だった。言われた言葉をオウム返しにする綺礼に、電話口からうむと重々しく頷く璃正の声が響く。
父の説明はこうだ。懇意にしていた人物が亡くなったのだが、その遺書の中に、あるものを璃正に引き取ってもらいたいという文章があったのだという。それが、どうやら動物らしいのだ。
『別宅でこっそり飼っていたらしくてな、他の知り合いも誰も彼が動物など飼っていることを知らなかったんだ』
身寄りのない人だったから、今その生物の世話は放置されていることだろう。引き取るにしても別の飼い主を探すにしても、まずは様子を見てこないことには手を付けようがないと父は言う。
「それを私に?」
『その別宅というのが、こちらからは飛行機の距離だがお前のところからは電車を使ってすぐなのだ。悪いが、頼めんかね』
すまなそうな口調には疲れが伺えた。
人が亡くなるということは大変なことだろう。それが、仲の良い人物であったならば尚更だ。加えて父は、何かあったからといって身軽に動けるような年齢ではない。自分では簡単に行くことができないという辛さもあるだろう。
「――とりあえずの様子を見るということで良いのですね?」
『頼めるか?』
電話口の向こうからは、明らかにほっとした声。綺礼の回答は間違っていなかったらしい。
『ああ、とりあえずで良い。必要そうならば儂がそちらに向かうか、病院かどこかに連絡をして預かってもらおう』
「わかりました。では明日、早速行ってきましょう」
『すまんな、綺礼』
そのまま璃正の読み上げた住所をメモする。話の中にあったとおり、綺礼の住むマンションからならば三十分程度で着ける場所だろう。建物名と二〇四号室という部屋番号からしてアパートのようだ。
体に気を付けて過ごしなさい、という父の一言を最後に電話は切れた。
メモした住所を眺め、綺礼はため息をつく。気軽に引き受けてしまったが意外と面倒そうだと。考えてみれば自分は動物など飼ったことがなく、いざ目前に弱った動物でも現れたらどうすればよいかの判断がつかない可能性があるのだ。今日の内に動物の生態を調べておいて……
(――ところで、それは何の生物なのだ?)
それを聞き忘れていたことに、今更になって気付くのだった。
慌てて手元のスマートフォンを操作しリダイアルするが、通話中になってしまっていた。仕方がない、向こうに着いてから調べるしかないだろう。近くの動物病院でも確認しておけば、いざというときの対応もできるはずだ。
メモを机の上に無造作に投げ、向かった布団に倒れ込みながら、綺礼はもう一度大きくため息を付いた。
そしてたどり着いたアパート。
璃正から事情を聞いていた大家に鍵を借り入った一室に、その生き物はいたのである。
さて状況を整理しよう。
ここはアパートの一室。この部屋には和室と洋室があり、その和室に綺礼はいる。和室にはちゃぶだいと少し古そうなテレビ、洋室にはチェストとベッドがある。どちらも六畳程度の部屋だ。和室には大きな窓があって、その外側は狭そうだがベランダになっているようだ。
そして綺礼の目の前には、そわそわした雰囲気を隠そうともせずに座っている、自身をうさぎだと名乗るスーツの男が。
「それで、君は誰なんだい?」
「――言峰、綺礼です」
「綺礼くんか」
襟足の長い黒髪、湖のような青い瞳。髪と同じ色の顎鬚を蓄えた顔の造作は男を年嵩に見せてはいるが、実際は綺礼より少し上程度だろう。知的な雰囲気さえ漂わせている。
彼は綺礼の顔を覗きこむようにして、会話の先を促すようにそわそわとこちらへ視線を送ってきていた。こちらの素性を伺っているのだろうか。それを知りたいのはこちらだというのに。
互いに向い合って座布団に座ったまま、切り出す言葉とタイミングを伺っている。
「……」
ここには父の友人のペットがいると聞いてきたのだ。
主人が亡くなってから長い間放っておかれた生物だから、餌をやったり掃除をしたりするのも大変そうだろうという想像はした。弱っていて病院へ連れて行く必要があるかもとか、最悪死んでいるかもしれないとか。
最悪の想像はいくつか巡らせておいたが、まさかこんな展開になるとは思わなかった。
「……」
人だ。どう見ても人だ。
前足が二本後ろ足が二本、目が二つに鼻と口が一つずつ。うさぎも人間もそんな特徴は一緒といえば一緒ではあるのだが、うさぎという生き物はもっと小さいし全身が毛で覆われていて、あと鼻の形だとか口の形とかだって、目の前の生き物とは全く違うはずなのだ。
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